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のほほんとして一見頼りなさそうな印象なのに、仕事は徹底している。ソニアは改めて感心するとともに彼に対して敬意を抱いた。
父もよく言っていた。己のやるべきことを手を抜かずにきちんと成し遂げている人というのは意外と少ないのだと。
そういう人には身分がどうであろうと相応の敬意を払うべきだ。ましてや自分がそういう人を使う立場であるならば、いつも感謝の気持ちを忘れてはいけない、と……。
つん、と鼻の奥が痛くなる。ソニアは眉根をきつく寄せて堪え、ゆっくりと珈琲を飲み干して静かに皿に戻した。
「……聞かせてくれる? お父様がどうなったのか」
「残念ながら、グィネル公爵閣下は亡くなられました。中央病院に運び込まれた時にはすでに手の施しようがなかったそうです」
背後からギヴェオンが静穏な声で告げた。ソニアは腿の上でぎゅっと拳を握りしめた。掌に爪が食い込み、痛みで涙が引っ込むくらいに。
「屋敷は居住部分の三分の二が焼けました。厩や車庫は無事です。貴重品を運び出す際に軽い火傷を負った者はいますが、使用人に死者や重傷者は出ませんでした」
ホッと息をついたのもつかのま、次のギヴェオンの言葉にふたたび顔がこわばる。
「火事の原因と旦那様を殺害した犯人について、警察が調べています」
「……本当にエリックがお父様を殺したの?」
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