12人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
独りごちたソニアの眼前に、赤い薔薇の花束がぬっと突き出された。窓の向こうに逆さまの顔がぶら下がり、ニィッと笑う。
「お花、買ってくれませんか、お嬢様ァ」
反射的に飛び退こうとして足を滑らせ、尻餅をついてしまった。
一回転して窓から飛び込んできた少年が、薔薇の花束を胸にあてて芝居がかったお辞儀をする。
いつかの花売り娘に化けた少年だった。今日は女装はしておらず、一昔前の貴族みたいな袖の広がった上着にレースの襟飾りと袖飾りのついたシャツを着ている。
肩の上で綺麗に切り揃えた金髪を揺らし、少年は美しく整った顔に禍々しい笑みを浮かべた。
「あなたのお墓に供える花ですよ。ぜひとも買ってもらわなきゃ」
「ど、どうしてここが……!?」
ずっと尾行られてた? まさか、そんな。
昨夜ギヴェオンはしつこいくらい何度も念入りに周囲を確かめていたのだ。特務とは別口でも、あれだけ用心したのだからそう簡単に見つかるはずがない。
落雷のように、ソニアの脳裏に衝撃が走った。
昨日の兄の言葉が蘇る。夜会服に仮面の男たちに囲まれて、兄は悪びれもせず自分への襲撃を認めた。ソニアは兄に向かって言い返した。『ギヴェオンが助けてくれなかったら死んでたわよ!』と。
ギヴェオンが、助けてくれなかったら──。
最初のコメントを投稿しよう!