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「探している答えは、すでに自分の中にあるのです。ただそれを思い出せばいい。今度夢で会ったら彼にそう言ってあげなさい」
シギスムントはこくりと喉を鳴らした。まったく別の人と会話をしているような気がする。でも全然怖くない。
いや、怖くないと言えば嘘になるが、少なくとも恐怖は感じなかった。聖廟の地下で女神の眠る柩を目にした時の畏れに、それはとてもよく似ていた。
ぱち、とオフィーリアが瞬きをした。呪縛が解けたように、ひしひしと感じていた言うに言われぬ威圧感が雲散霧消する。
にっこりとオフィーリアは銀のポットを持ち上げた。
「お茶、もう一杯いかがですか?」
「──あ。いただきます……。あの、姉上」
「はい?」
軽く小首を傾げ、オフィーリアが目を上げる。
「今、おっしゃったことは──」
「わたくし、何か申し上げましたかしら」
オフィーリアはとまどい顔で訊き返した。シギスムントは急いで首を振った。
「いいえ。何でもないんです。──このお茶、おいしいですね」
「それはよろしゅうございました」
ふわりとオフィーリアは微笑んだ。青空に浮かぶ雲のような微笑み。掴みどころがなくても、シギスムントは彼女の包み込むような笑顔が大好きだった。
それはいつも緊張を強いられて張りつめた心を癒してくれる。
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