第21話 眼鏡壊したら弁償してくださいね。

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 自分が一晩過ごした建物は、どうやら南区にあったらしい。馬車は螺旋大通りを外れて脇道へ入った。  浅緑の柳がそよ風になびく静かな石畳をしばらく進み、噴水と緑地のある広場に面した通りでようやく止まる。ドアを開けてくれた人物を見てソニアは目を瞠った。 「ギヴェオン! どうしてここに」 「途中で追いついて、後ろに飛び乗ったんです」  こともなげにギヴェオンは答えた。後ろにいるティムに目線で尋ねると、少年は頬を紅潮させてこくこく頷いた。風に晒されて多少髪が乱れているが、ケガもしていないようだ。 「あの変な殺し屋は?」 「追っ払いました。ともかく中へ入りましょう」  ギヴェオンは先に立って階段を昇り、奇妙な意匠の重々しい真鍮ノッカーを鳴らした。メイドのお仕着せ姿の、まだ少女といっていいくらい若い女性が現れた。 「こんにちは、ダフネ。グィネル公爵令嬢をお連れしました」 「ようこそブラウニーズへ」  メイドはうやうやしく膝を折る。ソニアは玄関ホールを見回しながら尋ねた。 「ブラウニーズ?」 「家事使用人の、斡旋所ですよ」 「斡旋所? それじゃ、ギヴェオンはここの……」 「はい、派遣員(エージェント)です」  にこっと無邪気にギヴェオンは笑った。     
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