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自分が一晩過ごした建物は、どうやら南区にあったらしい。馬車は螺旋大通りを外れて脇道へ入った。
浅緑の柳がそよ風になびく静かな石畳をしばらく進み、噴水と緑地のある広場に面した通りでようやく止まる。ドアを開けてくれた人物を見てソニアは目を瞠った。
「ギヴェオン! どうしてここに」
「途中で追いついて、後ろに飛び乗ったんです」
こともなげにギヴェオンは答えた。後ろにいるティムに目線で尋ねると、少年は頬を紅潮させてこくこく頷いた。風に晒されて多少髪が乱れているが、ケガもしていないようだ。
「あの変な殺し屋は?」
「追っ払いました。ともかく中へ入りましょう」
ギヴェオンは先に立って階段を昇り、奇妙な意匠の重々しい真鍮ノッカーを鳴らした。メイドのお仕着せ姿の、まだ少女といっていいくらい若い女性が現れた。
「こんにちは、ダフネ。グィネル公爵令嬢をお連れしました」
「ようこそブラウニーズへ」
メイドはうやうやしく膝を折る。ソニアは玄関ホールを見回しながら尋ねた。
「ブラウニーズ?」
「家事使用人の、斡旋所ですよ」
「斡旋所? それじゃ、ギヴェオンはここの……」
「はい、派遣員です」
にこっと無邪気にギヴェオンは笑った。
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