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館の内部は趣味のよい調度品や絵画が適度に飾られ、斡旋所というより個人の邸宅のようだ。
靴音を吸収する深紅色の絨毯を踏んで奥へ導かれる途中、階段の側でギヴェオンは足を止めた。
「ティムは階下で休んでいなさい。ダフネ、お嬢様は私が案内するから、彼にお茶を」
ダフネは頷き、気安い調子でティムを手招いた。ふたりが連れ立って階段を降りるのを見送ってふたたび歩きだし、ギヴェオンはひときわ重厚な造りの扉をノックした。
「ソニア様をお連れしました」
「入りなさい」
クールな女性の声が重々しい口調で応じる。
中に入ると、正面にひとりの女性が立っていた。二十代の半ばくらいだろうか。亜麻色の髪を後ろでまとめ、かっちりした紺色のツーピースドレスが怜悧な美貌によく似合っている。ギヴェオンほどのっぽではないが、ソニアよりもずっと背が高い。
扉を閉めたギヴェオンがソニアの斜め後ろに落ち着くと、おもむろに歩み寄った女性はいきなり左足を振り上げた。ほとんど反動もつけず、右足を軸にして凄まじい勢いの蹴りを放ったのである。
ギヴェオンの側頭部で、ぴたりと足は止まった。ほとんど髪の毛一本の差で見事に停止している。チッ、と女性は舌打ちをした。
「何故避けん」
「避けたらソニア様に当たりますので」
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