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「ともかく、ご無事で何よりでした。──では宿題を出して」
「なかったことにはしてくれないのね」
「ケガでもしたならともかく、かすり傷ひとつ負わず、雨にぬれて風邪をひいたわけでもないでしょう。特別扱いはしませんよ」
ソニアは溜息をつき、ノートを広げた。その日は居眠りすることもなく、順当に進んだ。授業を終えたアイザックは、帰り支度をしながらふと思い出したように尋ねた。
「そういえば今日でしたか、若君がお帰りになるのは」
「ええ、そうよ。今夜戻っていらっしゃるの」
ロイザの大学に行っている兄ヒューバートが、久しぶりに帰省してくるのだ。大学入学以来、兄とは夏と冬の長期休暇以外めったに顔を合わせなくなった。
「楽しみだわ。お正月以来なのよ」
「それはお話が弾むでしょう。ちょうどよかった、と言うべきかな。次の授業はお休みさせていただきます。用事がありまして」
「それじゃ次は金曜日ね?」
アイザックが講義に来るのは週三回、月水金だ。
「そうなりますね。少々間が空きますから、宿題をたっぷりと」
ソニアが絶句するのを見て、アイザックはくすりと笑った。
「……出すのはやめておきましょう。お兄様とゆっくりお話なさい」
「ありがとう、アイザック!」
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