第8話 磨くのはお嬢様の靴だけです。

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 晩餐の後、部屋を移ってしばらくお喋りすると、父は先に自室へ引き上げた。 「お忙しそうだな、父上は」 「建国祭の準備でずっとそうなの。外国からの賓客をもてなす責任者なんですって」 「それは大変だ。気苦労も多そうだね。白髪が増えないといいけど」  笑ったソニアは、ノックの音に目を上げた。入ってきたのは先ほど見かけたヒューバートの新しい従者だった。黒髪黒瞳の青年は銀の皿に数葉の手紙を載せていた。 「ロイザから手紙が転送されて参りました」  頷いたヒューバートは手紙をひっくり返して差出人を確かめ、すべて開かずに戻した。 「急ぎの手紙はないようだ。後で見るから机に置いといてくれ」 「かしこまりました」  うやうやしく頭を下げ、従者は引き下がった。ソニアはドアが閉まるのを待って尋ねた。 「エリックはどうしたの? お兄様」 「……エリック? ああ、彼は──、クビにしたよ」 「あんなに気が合ってたのに?」  ヒューバートは急に不機嫌そうになった。 「鬱陶しくなったんだ。よく気が回ったけど、この頃何かと口出ししてくるようになって。友だちの悪口を言ったり僕の行動を監視するようなことまで。頭に来たからクビにした」 「お兄様のことを心配してのことでしょう。悪気はなかったと思うわ」     
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