第8話 磨くのはお嬢様の靴だけです。

7/7
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
「オージアスさん、ですか? さぁ~、ちらっとしか見てませんので、何とも……」 「階下(した)で喋らなかったの?」 「私はあんまり。上級使用人のフレッチャーさんかフィオナさんに訊かれては」  フィオナは彼の良さげな面しか見ていないし、執事に問うのも大仰かと思ってギヴェオンに尋ねたのだが。 「あのー、他にご用がなければ行ってもいいでしょうか。まだ靴磨きが終わらなくて」  頷いて長椅子に沈み込んだソニアは、ふと気付いて伸び上がった。 「ちょっと待って! ギヴェオン、あなた靴磨きまでしてるの?」 「そりゃあしますよ。当然です」 「それはもっと下の者の仕事でしょ。あなたは私の従僕(フットマン)なのよ」 「だから磨いてるのはお嬢様のお靴だけです。御用事があればいつでもなんなりとどうぞ。あ、お出かけの際は必ず呼んでくださいね。旦那様からきつーく承っておりますので」  しかめっ面で頷き、行ってよしと手を振る。こめかみを押さえ、ソニアは溜息をついた。あのへらっとした態度に苛立つのか和むのか、よくわからなかった。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!