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一方ソニアは言われたとおり壁の向こうに続いていた路地を全速力で走り抜けた。高い建物に挟まれた薄暗い路地から急に開けた通りへ出る。
眩しさに顔をしかめたソニアは、ちょうど目の前に停まっている小型馬車に気付いた。
御者席にいた男がこちらを向いて微笑む。やけに暢気そうな笑みが、普段のギヴェオンと重なった。
やや癖のあるやわらかそうな黄金の髪に、青灰色の瞳。ギヴェオンの言ったとおり垂れ目気味で、右の目尻にある小さな黒子でさらに強調されている。
「待ってたよー。さ、どうぞ乗ってちょうだい」
とろんと間延びした声は昼寝から起きたばかりみたいだが、笑みをふくんだまなざしはこちらを見通すように深い。ソニアはためらった。
「でもギヴェオンが……」
「きみらふたりで来たってことは、先に行けってあいつが言ったんでしょ。だったらそのとおりにしないと、僕が後で怒られる。さ、乗った乗った」
顎で示され、ティムが慌てて馬車の扉を開ける。疑り深く金髪青年を睨むと、彼は上機嫌な猫みたいにふにゃっと微笑んだ。ギヴェオンよりもさらに脱力させる笑みだった。
(ええい、ままよ!)
ソニアは腹を括って馬車に乗り込んだ。扉を閉めたティムが馬車の後部席に上がるのを確かめ、青年はぴしりと手綱を鳴らした。
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