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灰被りAの行く末
伶奈と私が初めてこの街にやって来た日も、こんな柔らかな雨がしとしとと降り注ぐ春の夜であった。
片道数千円の高速バスに家出同然で飛び乗った私たちは、不安と後悔と希望で綯い交ぜになりながら大通りに降り立った。
地元のそれとは違う空気。行き交う人々の多さ。輝くネオン。
互いに小ぶりのボストンバッグを抱え雨に濡れながら、冷えていく肌に反比例して胸の奥が熱くなるのを感じていた。
オシャレな建物、目が眩むほどのショーウインドウの灯り、話し声、雑踏。
これからどうしようなんて、そんな不安は吹き飛んだ。
あてもなく歩き始めた私たちは、コンビニの求人情報の張り紙に思わず顔を見合わせた。
地元じゃ考えられないような数字が時給として貼り出されていたのだ。
高校を出てそのまま地元の飲食店でバイトしていた私たちより遥かに多い時給。
夜勤帯じゃないのに。高校生でもこの額を貰えるなんて。
隣の県なのにここはまるで世界が違う。ここなら、全て上手くいく。若さ故の衝動性と過信。
大通りの側のカフェで私は雨に濡れる街を眺めていた。
些か暖房が効きすぎている。窓が曇って外がよく見えない。
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