比谷日和

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比谷日和

 2019年10月28日、私は死んだ。  一段、一段、のぼる、のぼる。やっと3階。  だるい身体をゆたゆたと運び、教室の前まで来た。そして、ドアに手をかけた、そのとき──  ──アレ?  ヤな予感がした。女の勘というやつか。けれど、その勘がどういった類のものかは検討できなかった。  ガラガラガラ  ドアを開くと、クラスのメンバーが揃ってこちらを見た。なにかが違う。なんだろう。  疑問を抱きながら視線の隙間をぬって、自分の席に着こうとしたそのとき、ついに私は見てしまった。 『死ね、消えろ、ゴミ、クズ、アバズレ、デブ、淫乱、メンヘラ、ブス、かまってちゃん、カス、学校やめろ』  机の上のおびただしい文字の羅列を。  目につくものは簡単な悪口だが、細かい文字はとてもその朝その日に考えたものとは思えないほど、よく練られている。  ドラマみたい……とっさに思った。  まるでドラマやアニメのようにできすぎた光景だ。ここまで現実感のないものは他にあるだろうか。  ふと我にかえり、机から視線をはずすと、クラス中からの目線が私を取り囲み渦巻いてみえた。  誰? 誰がこんなひどいこと。何をしたというのだろう。なぜ? 標的になるようなことは……。  夢うつつなとき、 …………フフ  誰から笑いだしたか。たちまち教室全体が下品なクスクス笑いにのまれた。  私は静かに席についた。そして、病的な笑いを演じた。ただ笑っているしかなかった。笑うことで場に馴染み、目立たなくなるよう、目立たなくなるよう──無駄なことだと知りながら。  なんでこんなことになったの。  答えはきっと机の上にあると信じ、意を決して机を見た。  私は机を見つめた。右隣のあの子の席を。  けど、正解などわかることもなく、私は隣の席の悲劇に加担することとなる。当然のことのように。  あの日、私の人生は終わった。私はもうこの世にはいない。
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