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「雨が降るよ」
さえが言った。ぼくは信じなかった。
空は青く、木の葉の向こうに透けて見える太陽はまぶしい。天気予報だって晴れるって言っていた。雨なんて降るはずない、そう思ったんだ。
ぼくとさえは、三枝神社の石段のてっぺんに座っていた。ぼくらのすぐ後ろには真っ赤な鳥居と、おいなりさんの石像。階段をくだりきると石の鳥居が立っていて、道路の向こうは田がずーっと広がり、ところどころにぽつぽつと家がちらかっている。
鳥居とさいせん箱の間でリフティングをしていた井上は、何も返事をしなかった。あいつには、さえの声は聞こえなかったみたいだ。
石段の両側にならんだ桜の木や、元気に成長している稲たち、田んぼのはしっこの、村西さんちの犬小屋なんかを、くっきりと色鮮やかに太陽が照らすので、夏がすぐそこにあるのだと気づかされる。
さえの言葉なんて、嘘っぱちだ。ぼくはそう思ったんだ。
「お?」
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