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 その後、祝詞も僅か一日で暗記してしまい、当時存命であった祖父と一緒に唱えるようになった。  両親も心配し始めた。  「変な子や。」  すなわち、両親も雄介のことを「おかしい」と内心考え始めていたのである。    それだけではない。  雄介の本棚にはいつも宗教関係の本が並び、なぜかニーチェやキルケゴールなどの本も並んでいたのだ。小学生からである。  そして、小学校の六年生から「宗教遍歴」をやり始めた。  ここまで来ると、「おかしな子」の域を完全に超えている。  最初に行ったのが浄土真宗のお寺であった。このお寺は母親の実家の檀那寺であり、門をくぐると本堂とお墓が併設されていた。そして、門にインターフォンがついていたので、インターフォンごしに呼びかけた。  「住職さんはいらっしゃいますでしょうか?」  「はい。どうぞお入り下さい。」  雄介が門の中へ入ると、頭を刈ってはいない住職が本堂の廊下にいて、ニコニコ顔で雄介を出迎えた。  何の前置きもなく雄介が尋ねる。  「歎異抄を読んで来たんですけど、悪人正機説について教えて下さい。」  住職は目を丸くした。目の前にいるのはどう見ても小学生である。  歎異抄を読んできたなんて本当なのか?悪人正機説なんて言葉を一体どこで覚えたのか?大人をからかいにきたのではないか?適当に追い返そう。  「そんなことは大人になってからでいいから、勉強や運動を頑張って、それからお友達と楽しく遊びなさい。」  そう言って追い返された。  次に行ったのが奇跡を売り物にするある新興宗教であった。  新興宗教というのは金が余っているのか、荘厳な大聖堂を立てている。子供の雄介が入るには少し勇気がいるような大きな建物であったが、彼は堂々と入っていった。靴を脱いでスリッパに履き替えると、中では何人もの大人の人が忙しそうに行き来していた。そして、「お清め所」と書かれた広間があったので、雄介は堂々と中へ入って行った。中では多くの信者が祝詞をあげていた。  「僕ちゃんだあれ?何してるの?」  奇麗なお姉さんに声をかけられた。  「悪霊を払って欲しいと思って来ました。」
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