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    「僕達、宇宙人」                       これは、子供時代に「宇宙人」と呼ばれた子供達の物語である。               *    雄介は子供のころから「変わった子」であった。  先ず、知能検査では全く問題がなかったので、普通の小学校へ入学した。言葉の遅れもなく、難しいことをよく記憶していた。  しかし、時々「言ってはいけないこと」を平気で喋ってしまうので、母親は常に注意を払っていなければならなかった。  「子供は天使である」なんて言うのは全くの幻想であって、子供ほど残酷な者はいない。例えば、太った人に対して「デ○」と言ったり、禿げた人に対して「○げ」などと平気でのたもう。  そう言う意味に於いては、雄介はごく「普通の」子供であった。  だから、母親が「そんなこと言うものじゃありません」というようなことを平気で話してしまうことがあった。  当然、母親はそれは「子供のことだから」と考えて、まさかこの子に障害があってのことだとは気付かなかった。大人になってもこういうことを平気で喋ってしまうところが雄介の「変わったところ」だったのだ。  雄介は「人を傷つける」ということが分からなかったのだ。小学校の時に「この子奇麗なのに、なぜこっちの子は不細工なの?」などと平気で言って女の子から殴られたこともあった。  また、人づきあいが苦手で、引っ込み思案なところがあった。  母親はそれを性格だから仕方がないと思っていた。  確かに、引っ込み思案な子供というのはどこにでもいる。しかし、小学生になっても町内会の子供会に出られず、入口で「お姉さん」に説得されてやっと行くようでは、どこかが違うのである。また、人の目を見ながら話ができないという奇妙なハンデも負っていた。   雄介は大人になってから単身でアフガニスタンへ乗り込んでテロ組織に入ったり、突然タイへ行ってムエイタイを習ったりといった「奇行」をやって見せるが、なぜか元々は小心者であったのだ。本来の雄介は飼っていた猫が死んでも泣くような優しい心の持ち主だったのである。  
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