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ソファに座ったままの優作の脚の間に顔を埋めながら、郁美は昔の事を思い出していた。あの日あの時から、そして今も自分は優作の支配下にある。彼の言葉に反抗しようものなら幾度となく拳が振り降ろされ、意にそぐわない返答をすれば蹴り飛ばされ、ボディタッチや性行為を拒否する仕草を見せれば、彼の気が収まるまで執拗に嬲られる。
一人での外出は最小限。スマートフォンで位置情報を確認され、彼からの連絡には5分以内で返事をしなければならず、知人や友人の連絡先を登録することは許されない。
スマートフォンを自宅に置き忘れて近くのスーパーへ買い物に出掛けた時など、まるでペットのように鎖で繋がれ、裸でベッドの柱に括り付けられてしまった。数台の監視カメラが身じろぎ一つ、瞬き一つ見逃さず、常時彼のタブレットに送信される。そのまま数日間、いかに自分が低能な人間か、彼がそんな自分をどれほど愛しているか、誰に生かされているのか、頭にそして身体に刻みこまれていった。
「約束を破るおまえがいけないんだよ」
耳元で何度もそう囁かれ、躾直しと称した監禁生活が解かれる頃には、もう、心を生かすことも諦めてしまった。
「あぁ…いいよ郁美。そろそろイキそうだ」
郁美はゆっくりと口を離して顔を上げ、体を起こして優作の腰に跨る。先程まで自分の口に頬張っていた優作のそれを自分の秘所に充てがうと、優作の目を見つめて口を開く。
「あなたので、私を気持ちよくさせてください」
満足そうに微笑む優作に口付け、それがまるで極上の快楽であるかのように、郁美は声を上げて腰を振るのだった。
全ては、自分自身を守るために。生きて行くために。彼に殺されないために。自分の感情を殺すのだ。そうしていれば、彼は優しく笑い、柔らかく抱きしめてくれ、幸せな生活は保証される。
彼は昔も今も何も変わらない。私をただ愛しているだけ。彼を愛せなくなってしまった自分が悪い。彼の一挙手一投足に怯える自分が悪い。彼の笑顔をおぞましく思ってしまう自分が悪い。彼の機嫌を損ねてしまう、出来の悪い私がすべて悪いのだ。
私が私でいられなくなるくらいなんてことない。酷い目に合わされるくらいなら、もう何も求めたりはしない。
結婚当初から、郁美のすべてを支配し続ける優作から逃れることなど、考える時間も気力も、何もなかったのだった。
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