となりのマリア

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となりのマリア

物心ついた時には、隣りに誰も居なかった。 日本社会には多くのエアポケットがある。 親に恵まれない子。友だちに恵まれない子。指導者に恵まれない子。 環境に恵まれない子。運のない子。そもそも親のいない子。戸籍のない子。 そして、まだ名前の無い障害に見舞われた子。 萩原基雄くんは人とうまく話せなかった。 話そうとすると白いもやがかかって、相手との距離を見失う。 萩原基雄くんは勉強がうまく出来なかった。 先生の話す言葉は宙にふわふわと浮かんでいて、必死に手を伸ばすのに掴めない。 萩原基雄くんは運動がうまく出来なかった。 いつも出来るイメージの自分が前を走っていて、イメージの彼は上手くハードルを越えていけるのに、自分自身はぶつかって、転んでしまう。 後に、彼の背負った精神的な特徴は発達障害と名付けられるのだけど、 彼がその事実を知るのはずっとずっと先の話。 あの時、名付けてもらえていれば良かったのにね。 でもきっと、彼を語るにはそれでも足りない。 発達障害の中の、更にどんな障害の種類なのか。それはまだ解明されていない。     
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