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例えば足が折れた人がいたら、みんなその人の日常生活が人並みに戻れるように手を貸すし、そうなれていなかったら問題だと認識して心配してくれるだろう。
でも、まだ名前のない障害を背負った人たちの「ケガ」は、みんなにはわからない。
だから彼はただ「出来ない奴」「病気の子」「無力な人間」として周囲の視線に晒され、人から与えられるレッテルがいつしかその人のガワを形成してしまう。
基雄くんの両親は基雄くんを可哀相だと思った。
それがよくなかった。
基雄くんは何も出来ず、人と上手く会話できない自分が可哀相で、そしてそういう人間なんだと思い込んだ。
本当は、どこかに基雄くんが上手く話せる場面はあったかも知れない。基雄くんが「何が出来ないか」ではなく、「何を出来るようになりたいか」を目指せる場所はあったかも知れない。
でも、そうはならなかった。
基雄くんが学校に行けなくなったのは小学校4年生。10歳の時。
それから30年が経って、今は40歳。まだ社会に出られない。
両親はすっかり年老いて、それでもアルバイトを頑張っていた。
基雄くんは働きたかった。
働きたくないと思ったことなどこの30年で一度もなかった。
両親に迷惑をかけたいと思ったことだってこの30年で一度もなかった。
だけど、どんな風に名乗って、どんな風に面接を受けて、
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