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ビール缶を片手に椅子に腰を下ろす。今日は一本だけだ。飲みすぎるとトイレに行きたくなる。心霊現象が起きている最中にもよおしたら最悪だ。それなら飲まなきゃ良いじゃんと、好美の声が聞こえてきそうだが、飲まないとやってられないから仕方がない。
番組は女優やスタッフの安全を考慮してか、本当に危険な場所へは入らないようだ。いち視聴者としては瓦礫に埋もれている場所にも行ってもらいたいが、何かあったらバッシングを受けるのは明白。懸命な判断だが、見てて面白くない。
番組が始まって二十分。一つ目の廃墟探索が終わった。そして、日本各地の廃墟というコーナーに変わり、立入禁止で入れない場所や、不良がたむろしている場所を中心に紹介し始めた。
「ん?」
ぼんやりと番組を眺めていると、見覚えのある物が目に入った。
床に転がっているあれは――僕の家にあるガラガラだ! 形や色がそっくりそのままだから間違いない。
場所は東京のすぐ近く、建物の色的におもちゃ屋さんだろう。立入禁止のテープが張り巡らされているから、よっぽど危険な廃墟みたいだ。
映像がボヤけているから、もっとよく見たい。見せてくれないだろうか。もしくはガラガラについて言及してほしい。しかし、僕の思いとは裏腹に映像はサラッと流されて、日本各地の廃墟コーナーは終わってしまった。
場面は番組一の目玉廃墟へと移る。歴史ある廃墟で、様々な伝説が生まれたらしいが、僕の意識は無造作に転がっていた古いガラガラのことでいっぱいだった。
僕は紙に番組名を書いてから、すぐに廃墟となったおもちゃ屋さんのことを調べ始めた。こういう時にインターネットは便利だ。
気づけばビールを飲む手は完全に止まっていた。まだ半分も飲んでいないが、今はそれどころじゃない。ようやく、ようやく手がかりが掴めそうなのだ。
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