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らぢお体操第一。足を振って手を伸ばす運動。
『ちゃん♪ちゃらら♪ちゃちゃん♪』
また【らぢお体操】のピアノの音律が軽快に鳴っている。
鳴っているのは、とある総合病院の一室だ。
昔懐かしい鉱石ラジオっぽい装置を枕元に置く老人がひとり、眉根を下げ、張り付けたような眼で虚空を眺め、いかにもそんなシールを張っつけました的な無表情さでベットに横たわっていた。
「うん、じゃあ体操しようか」
彼は独り言のように、誰に聞かせるわけでも上半身をゆっくり起こし、らぢお体操をしようと上手く動かない両足をベッドの右側方に腰を振って勢いを付けて投げ出し、だらりと床に足裏をつけた。
『足を振って手を伸ばす運動!』
古びたラジオから聞こえているだろう音声にあわせ、老人は、ちゃんと動く腰を左右に揺すり云うことを聞かない足をユラユラ蠢かせ、【らぢお体操】の愉しげな音階にリズムを合わせ調子をとっていった。
そして、この運動に連動して、点滴に繋がれた右腕と包帯が巻かれた左腕を正面に向かってまっすぐ伸ばしてから、両腕を肩から頭の上へと持ち上げ、上にあげたらまた水平に戻して、今度は肩から下へと、自分の体に沿わせるようにしながら規則正しく正確に動かしていく。
この動作を老人は、背筋をスッと伸ばしながら三度繰り返した。
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