桜の下でもう一度

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「再び過去をやり直すって事は、タイムリープしたらもう、現在には戻って来れないって事ですか?」 「そう。もう一度、人生をやり直すんだ」 にやりと笑うと、早川はコーヒーをすすった。 「だけどね……」 カップを揺らしながら、早川は続けた。 「その世界は、過去であって過去ではない……。全く違う世界……。パラレルワールドだっていう説もあるんだ」 「パラレルワールド……」 「ま、信じるか信じないかは、乙羽(おとは)ちゃん次第だけどね」 担当初日から、三つ年下の私を『乙羽ちゃん』と呼ぶ早川は、悪戯っぽい笑顔を私に向けた。 「もう。またからかったんですね。真面目に聞いて損した」 少しむくれてアイスティーを飲み干す私を見て、「ごめんごめん」と実に可笑しそうに早川が笑った。 早川はいつもそうだ。 会う度、都市伝説もどきの話題を持ち出してくる。 まあ、それをいちいち信じてしまう私もどうかと思うが……。 きっと早川にとって私は、妹みたいなものなんだ。 「それじゃ、いくつかシミュレーションしてみますので、出来たらまたご連絡いたします」 ほんの少しの胸の疼きを笑顔でかき消すと、私は素早く伝票を掴んで席を立った。
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