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桜の下でもう一度
「タイムリープって知ってる?」
「タイムリープ?」
私は、氷で少し薄まったアイスティーをストローでかき混ぜながら、上目遣いに早川を見た。
「それって、タイムスリップみたいなものですか?」
「いや、ちょっと違うんだよね」
コーヒーカップをソーサーに置くと、早川は両手でゲンコツを作った。
保険の外交員をしている私は、行きつけの喫茶店で、早川に保険の新プランの提案をしていたところだ。
一通りの説明を終えた後、話の流れから好きな映画の話になり、そこからタイムリープの話題へと移ったのだ。
昨年から担当している彼、早川匠は、二十八歳独身。建設会社の営業をしている。
「そろそろ身を固めなきゃと思うんだけど、なかなかね……」と零す顔からは、それほど緊迫した様子は伺えない。
そこそこイケメンの部類に入る彼は、女性には特に不自由していないのだろう。
何度か会ううちに、こうして雑談までする仲になった彼は、瞳を輝かせながら、自分の左手を見つめた。
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