春海日和

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綺麗な石を探して歩く。どこまでも歩く。足をとられて躓いても、躓いても歩き続ける。波風はおだやかに僕の背を押す。立ち止まり前方を見る。石が無限に折り重なり、先の先まで埋め尽くしている。 足下を見つめながら、綺麗な形、綺麗な色を探す。目についた石を拾いあげ、手にとってまじまじと見つめる。違ったら放り捨て再び探す。これもちがうあれもちがう、ほんとうに見つかるのか?ほんとうに僕は見つけたいのか?なにを探しているのだ。 疑ったことのない疑いが心にあらわれる。それでもゆかねばならぬのだ。誰にも説明できないこと。だから誰にも云えぬこと。伝えたくないのではない。伝わらないだろう。この想いが何度も云えぬわけになる。繰り返される心のしくみだ。しかたない。僕には十分わかっている。孤独ではない。ただのわがままに、孤独という名は相応しくない。そこまでセンチメンタルでもないのだ。 10歩先に、僕にしか見つけ得ない綺麗な石があるかもしれない、そう期待して次の10歩、そしてまた次の10歩もゆくだけのことだろう。綺麗な石がどんな石なのか、ほんとうはわかっちゃいない僕なのだから。 了
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