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「おかえり。」
家に帰り玄関を開けると父さんがどこかに出かけるところだった。父さんを見るのが久々だった。前見たのが半年前だった気がする。
「これ、禅が好きなアニメのキーホルダーお土産に買ってきたよ」
気の弱い父さんらしく、へにゃりと笑う。
父さんはすごく気が弱い。おどおどしてこの人が狗神と言われても信じない人が多いと思う。だけど、狗神の中でトップの実力で父さんが担当したところは惨い最期を迎えることになる。だから父さんによく仕事が来て忙しくて家に帰ってこないのは分かるけど、
「もう持っているものだったか?」
だんまりな俺に父さんはおどおどしながらうかがってくる。キーホルダーは俺が欲しかったご当地魔法少女るるかだ。とうさんは俺がるるかが好きなのを知っていてわざわざ買ってきてくれたんだ。嬉しいし、欲しいものが手にはいいたのに高揚感が全くない。俺は首を振って、
「ありがとう」
と言った。父さんはようやく笑ってくれて、
「父さん、またこれから仕事なんだ。ごめんな、なかなか家にいなくて。」
父さんはそのまま慌ただしく玄関から出て行ってしまった。
狗神の仕事を知るまでは父さんのことが気が弱くても優しくて強くてかっこいいと思っていた。すごく尊敬してべったりしていた。父さんみたいになりたいと本気で思っていた。だけど、狗神の仕事を知ってしまった今、俺は父さんを避けるようになってしまった。あんな気の弱い父さんが自分の役目だと言ってやることが可哀想でもありできてしまうのがまた怖かった。
俺は父さんみたいになりたくない。今はそう思う。
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