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陽菜は内心で盛大に叫び、現実では深々と溜息をついた。
(今日も踏み出せなかったなあ……)
浅田リキに話しかける、というのはここ最近の目標だった。応援してくれている人たちだっている。なのに、現実で一歩踏み出す勇気がまだ持てない。
五限の講義が終わって日も暮れたころ、とぼとぼと帰路に着こうとした陽菜に、明るい声がかかった。
「ヒメちゃーん、みんなでカラオケ行こって話になってるんだけど、一緒にどお?」
振り向くと、ノリのよさそうな男子学生がいた。その後ろに、女子と男子が何名かいる。同じ学科内でも陽気な――いわゆる陽キャ系のメンツだ。
陽菜は控えめに微笑した。
「……ごめんね。これからバイトなの」
「そっかー、残念! じゃあまた!」
いかにもノリが良さそうに青年は言って、カラオケ組に合流した。振られたー、などと軽い声で言い合っている。
陽菜はそれを少し見つめたあと、大学を出た。鞄の紐を握り直しながら、暗くなり始めた道を急ぐ。
――バイトというのは嘘だった。
(……オールとかになったら、肌に悪いんだよー)
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