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 ひそひそと声が聞こえた。 『ヒメさん、今日も可愛いよねえ』 『化粧品何使ってるんだろ……? それとも素? 髪とかサラサラじゃん』 『聞いてみたらいいじゃん』 『いや、でも……』  背後から聞こえてくる賞賛に、陽菜はぴくぴくと小鼻が膨らみそうになった。 (そうでしょうそうでしょう!)  誇らしさで胸がいっぱいになる。自分の外見を磨くことに、日々邁進(まいしん)しているのだ。  が、顔にはそんな気持ちは出さない。  教壇に立つ講師の話に熱心に耳を傾ける――ように見せかけ、斜め前の席に座った男子学生を慎重に見た。  茶髪が多い中で珍しい黒々とした髪。熱心に講師の話を聞く横顔は、鼻筋が通っていて眉の下のくぼみから鼻先までのラインがきれいだった。ちょっと薄めの唇も形が良い。  彼は講師のほうを向いているから、もちろん陽菜に振り向くことはない。ひそひそ噂されてるように、陽菜の見た目に賞賛を向けることもない。  浅田リキ。  陽菜はもうここ数ヶ月、ずっと彼の姿を目で追っていた。 (今日こそ……今日こそっ!)  彼に話しかけるのだ、と陽菜は自分を奮い立たせた。 (……あああああもう、私のバカー!)     
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