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春霞
笛の音が春霞の空を切って、サッカー部員たちは足を止めた。
試合終了。
スコアを書きとめるペン先に力がこもる。四―〇。惨敗。クリップボードをばんと勢いよく伏せ、声を張りあげた。
「お疲れー! 切り替え切り替えー!」
十六番だけが動かなかった。チーム一の負けず嫌い。目を擦っていた。一度では足らず、二度、三度。すっと切れた下瞼が光っていた。
正直、敗戦の原因は彼にあるように見えた。らしくないミスの連続。
でも、だからって。練習試合なのに。
彼は拳で強く目許を拭った。
その仕草が胸に残り、帰り道、高い背を呼びとめた。
「……なに」
振りむいた目尻が赤い。
ぐっと詰まった喉を開く。
「自分のせいとか、思いあがり過ぎ」
「は? ……かゆ」
彼はまた目を擦って、すんと鼻を鳴らす。
これがなれそめ。
毎年、花粉症の季節になると思いだす。
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