蜘蛛の恩返し

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 そんなある日、男は仕事の関係である女と出会った。女は取引先の新しい担当で、男は初めて彼女を見た時に心臓が高鳴るのを感じた。そんな感覚は男にとって久しぶりのことだったので、その晩はうまく寝付けない程だった。  女と出会ってから、男の指先の赤い糸は明らかに伸びるのが早くなった。そのまま伸ばしておくと日常の動作や仕事に支障をきたすので朝の出勤前に切るのだが、またすぐに伸びてくる。まるで髭のようだった。しかも、女と会った後は赤い糸の伸びが明らかに早くなるのである。  男は、その赤い糸を女の指に巻き付けてみたいと思うようになった。そしてその為の作戦を夜な夜な練った。そのせいで最近は映画を観る本数がぐっと減ってしまったくらいだった。  それを考えている時間は男にとって上質な面白い映画を観ている感覚に近く、全く苦ではなかった。
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