一枚の油絵

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 生まれて初めて犯す、犯罪らしい犯罪である。だがここに固く誓う、これが最初で最後の、自分が手を染める犯罪であると・・・。そして、「絵」はあった。20年前と全く同じ様に、少女は絵の中で、少し斜め下を向き、面白いともつまらないとも見分けがつかない、まるで、その年でもう、人生を達観してしまってでもいる様な、醒めた笑みを浮かべている。自分はそれを、慎重に壁から外し、用意してきた大きめの袋に静かに入れ、その場から立ち去っていった・・・。  部屋に帰ってきてその絵を確認すると、額の裏に、封筒が貼り付けられているのを見つけた。以下、その中からでてきた手紙を、原文のまま転記する。  “この絵は、私がかつて働いていたレストランから、盗んできたものです。暇な時はもちろん、忙しく、フロアを動き回っている時でさえ、常にチラチラと、この絵のことを目で追っていました。その位、この絵に魅了されてしまっていたのです。そして、レストランを辞めることが決まった際、どうしてもこの絵が欲しいと思った私は、深夜、店に忍び込んで、この絵を盗み出しました。その代わり、造花の入った、同じ大きさの額を掛けておきましたが、結局誰にも気づかれずに終わりました。店は私が辞めた後、火事で全焼してしまったのです。そこで私の罪悪感も、消えて無くなっていきました。それら一連のことを、ここに書き留めておきます”  つまりこの絵は、2度も人の手によって盗まれ、そのおかげで、2度も消滅の危機を免れたのである。何とも不思議な運命をたどってきた絵である。きっと、この絵が持つ、魅力以上の魔力の様なものが、そうさせたのではないだろうか。 「ありがとう、助けてくれて、フフフ」  しゃ、喋った!!、い、今、絵の中の女の子が喋った!!  それからというものの、自分は気が付くと、「絵」に話しかける様になっていた。そんな機会が重なり、いつしか普通に日常化してくると、さすがに自分としても不安になってくる。自分の行いは果たして、正常なのか、それとも異常のなのか。ある日それを、壁に掛かった「絵」に問うてみた。すると、 「だったら私のこと、捨てちゃっても構わないんだよ。また誰かが多分、拾ってくれるだろうから」
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