第2章

2/17
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
 母に今日は出かけると言ったら、あまり遅くならないように、とだけ言われた。父は今日もこの家にはいない。母は大みそかという今日をどう過ごすか、わからなかったが、私は制服にアイロンをかける。演奏会といっても先生の教え子が数名、演奏するという気軽な会だから制服でいいよ、と結衣に言われた。クラシックに詳しくない私が行ってもいいのか、と結衣に尋ねたら、詳しいって何を基準にして言っているの、と逆に問われてしまった。 「私は茜の直感を信じている。ガトーショコラよりもっと美味しい演奏を聴かせてあげる」  結衣はそう言って、私を口説いた。私には結衣に認められているようで、誇らしかった。外を窓からのぞくと、雪がちらつき始めている。今日は寒くなりそうだ。  高校から近い駅の、待ち合わせの改札前で、結衣もまた制服で私を待っていた。私が手を振ると、結衣もまた手袋をした手で、振り返した。 「学校以外で茜と会うなんて、新鮮」 「私も。でもさ本当に手土産とかなくて平気なの?」 「内輪な会だし、弟子があまり出しゃばっても先生に悪いから」 「そのプライベートな会に私が入り込むんだから、ちょっと緊張しちゃう」 「私の選んだ同伴者なんだから、堂々としていて」  そう言って結衣は笑ったが、私はナーバスになっていた。いくら結衣の太鼓判があっても、演奏会というものに私は縁がなかったので、気が張る。     
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!