第1章

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 ついでにお風呂にも入ってしまおうと思ったときに、父が帰ってきた。ふたりは努めて静かに、そして冷ややかに、お互いを受け入れているフリをする。私は触らぬ神に祟りなし、と思い、お風呂場に向かった。脱衣所で洋服を脱いでいるとドンッという鈍い音が響いた。また始まったと私はため息をつく。お風呂から出にくいな、と思いながら、私は夕暮れに響いていた「熱情」の激しくも切ないメロディを思い出していた。もしかしたら彼女は、あの有名な子かもしれない、と思い出した。  私の通う高校には三つ科がある。特別進学科、普通科、音楽科だ。私が通っているのは特別進学科で国公立大学や有名私立大学の入学を目指す。通称、特進科。普通科の卒業生はそれなりの大学や専門学校に進学する。三つの科のなかで異色を放っているのが音楽科だ。特進科と普通科とは別棟で、全く違うカリキュラムをこなしている音楽科の生徒たち。音楽科は文化祭は音楽祭になり、体育祭は、楽器を弾く手を傷つけてはいけないという名目で、創作ダンスだけの参加という配慮がある。音楽科の生徒の特別扱いを、音楽バカと嘲って言うクラスメイトもいるが、棟も違うし、接点のないひとたちを何も知らないで私はどうこういう気にはなれなかった。     
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