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「音楽科では課題曲しか弾かせてもらえないからね。歪んだ鳥籠みたいなところだよ。みんな将来のライバルだしね」
私の素朴な疑問に、ピアノの前に座っている結衣はため息に近い、うんざりとした口調で言った。
結衣はそれ以上を語ろうとしない。よほど居心地の悪い場所なのだろうと想像がついた。確かに音楽科は不自由そうだ。音楽を奏でるためだけの人間を育成しているような気が、私でさえした。特進科や普通科の子たちはコンビニエンス・ストアやファミリー・レストランで時間を潰すことがあるが、音楽科のタイをした子を見たことがなかった。一般棟から隔離された、美しい音楽で彩られた棺。それが私が抱く音楽科のイメージだ。そしてそれが決定的になったのは初めて音楽科の数学の教科書を見せてもらったときに覚えた違和感。落ちこぼれの私ですら簡単に解けるような問題ばかりだった。それでも結衣は必死に解くので、私も特進科で頑張らなくては、と思うくらいだ。
結衣は語学が堪能で、英語はもちろんのこと、ドイツ語が喋れた。細かい文法は全然わからないけれど、と照れ隠しをしていたが。
「本当ははね、普通の女子高生したかったんだ」
「何それ」
「勉強して、寄り道して、ショッピングして、大学どこ行こうかなって悩んで。そんな普通の女子高生生活をしたかった」
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