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第2章
終業式の二日前に結衣はピアノの前に座り、即興で音楽を奏でながら、何げなく私に声をかける。
「茜は大みそかって何か用事ある?」
「特にないけれど、どうして?」
「ピアノの先生の家で演奏会があるのだけれど、来る?」
「行きたい! でも私が行っていいの?」
「もちろん、大歓迎だよ。つまらない会だと思うのだけれど、茜となら楽しいかなって思って」
「すごい嬉しい。結衣のピアノ、ここ以外で聴けるのは初めてだから楽しみだよ」
「そんないいものじゃないと思うけど、茜が一緒にいてくれれば私も心強いよ」
期末テストの赤点からなんとか免れ、父と母の諍いも小康状態で、私は穏やかな日々を過ごしていた。結衣も二学期を優秀な成績で収め、数学の答案用紙を見せつけてきた。お互い憂いなく年を越すことができる、と言い合っていたところだった。私の日々には結衣のおかげで音楽が溢れていた。満ち足りた、美しい日々。
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