労働は尊い

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「ほらほら、餌の時間だ。いい加減に大人しくしろよ」  俺は飼料を柵の下の餌皿に盛ってやる。奴らとて生き物だ。食わなきゃ死ぬ。餌を食ってる間は鳴き声もだいぶ大人しくなる。完全に静かになる事は無いが。やれやれだ。  畜舎の様子を見ながら、餌を与えていく。この畜舎では母体と産まれた子を別にはしない。どうも未成熟な状態で産まれるらしく、母体から離すと途端に衰弱するのだ。  牛や豚なら授乳の時だけ同じにして個別飼育が可能なのだが、この種は生育期間が長く、乳離れしてからも自力で餌を食う様になるまで手間がかかる。  それがわかるまで数匹死んだ。肉は至高と言える程に柔らかくて美味かったが、何せ小さい。小型種なので尚更だ。食った気にならない程に小さな肉。  まぁ供給が安定すれば高級ブランド肉として美食家達に人気が出る食材となりそうではあるが。  今ここで飼育している子はまだまだ小さい。今はとにかく大きく育てて繁殖用に使える様にするのが最優先だ。 「そろそろ汚れてきたな」  後で従業員に畜舎の掃除をする様に言っておこう。油断すると逃げ出すから一度に済ませようとしない事を注意しておかねば。 「となると犬の出番か」  餌を食い終えた奴らがまた煩く鳴き始めたので、さっさと畜舎を出た。  その足で犬舎に向かう。牧羊犬として飼い慣らされた犬達は無闇に吠えたりはしない。その代わりにぶんぶんと砂埃が立つほどに尻尾が振られる。可愛い奴らだ。 「よしよし。今日は運動の日だからな。たっぷり追いかけてやってくれよ」  新しい種は群れると強気だが、追われるのは苦手らしい。最初こそ刃向かうものの、犬が一声吠えれば途端に逃げ惑う。それを適度に追いかけて運動させてやると肉が締まって旨みが増すのだ。 「ほら、好き嫌いしないで残さず喰えよ」  牛の骨と豚のクズ肉、それと野菜クズを茹でたモノ。きちんと覚えるまでは新しい種の肉や骨は与えない。味を占めてツマミ喰いなんてされたら大変だ。最悪、コイツらを処分しなくてはならなくなる。  まぁコイツらは賢いから家畜は餌じゃない事を知っている。新しい種ももうすぐ家畜なのだと学習するだろう。
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