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出逢い。
「ねえ? 黙ってちゃわかんないじゃん? なんとか言ってよ?」
そう言ってクスクスと笑ったその青年に安田叶は確かな苛立ちを感じつつも小さな声で『えっと・・・』と、しか言い返せれずに俯いてしまっていた。
本当に・・・イライラしてしまう・・・。
心の内だけでそう呟き、俯いていた叶の視界はいつしか歪み、滲んで揺れだしていた。
いつもそうだと思う・・・。
どうして私はもっとはっきりと言葉を言えないのだろう? と・・・。
あと少し・・・あとほんのもう少しだけでも私に意気地があれば・・・と・・・。
「あ~・・・もう・・・いいや!」
何も言い返して来ない叶に痺れを切らしたその青年は叫ぶようにそう言うと叶の手を乱暴に掴み、叶の手を掴んだまま人波をかわしつつスタスタと歩きだしてしまっていた。
青年のその突然の行動に叶は『ちょっと!』と声を発したのだが叶のその声は行き交う人々の雑踏に紛れ、青年の耳に届くことはなく、立ち止まろうと足掻く叶の脚力は弱くて無理矢理に叶の手を引く青年には何も伝わらずにいた。
抗う叶はただただ無力だった。
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