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「ああ・・・。こんなところにいた・・・」
そんな言葉と共に唐突に肩を抱き寄せられた叶はビクリとし、足の動きは嘘のようにピタリと止められていた。
「勝手にいなくなっちゃ駄目じゃない・・・。探したよ?」
叶の肩を抱いたままそう言ったその人の声は低くも優しいものでその低くも優しい声は叶にしとしとと降りしきる夜雨を連想させた。
「・・・アンタ・・・誰?」
そう訊ねたのは叶の手を掴んだままの青年だった。
「そちらこそ・・・どちら様?」
そう青年に訊ね返したその人の口元にはじんわりとした薄い笑みが滲んでいた。
その人のその薄い笑みを目にした青年は無意識のうちに叶から手を離し、身構えていた。
叶の肩を抱いているその人のその態度は決して高圧的でも威圧的でもなかった。
むしろその人のその態度は青年のそれよりも遥かに低姿勢で丁寧だった。
だが、しかし、その人から漂ってくる独特の雰囲気に青年は気圧させられてしまっていた。
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