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リクトは、しばらく差し出された小太刀を眺めた。やがて小太刀を受けとり、鞘から抜いた。
黒地の刀身に研ぎ澄まされた刃は、月の光を反射して煌き、その鋭さを物語っていた。リクトは、その美しくも恐ろしい黒銀の刃を、鋭い眼差しでしばらく見つめながら、亡き父と母のことを思った。
不意に、親方が言った。
「親が無くとも、子は育つ。お前もヴィーラも、俺たち大人が何もしなくても、いろんなことを学び、立派に成長していく……。お前さんが大変なこの時も、俺たち大人は選別としてそういった物しか贈れん……」
リクトは首を横に振ると、小太刀を鞘に納め力強く握りしめた。
「何もしなくても、いてくれるだけで安心できる。俺にはもう、親と呼べる人はいないけど、親方のこの気持ち、すごくうれしいよ。ありがとう……」
少し照れ臭くなったのか、親方は何も言わず苦笑した。
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