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部長が夜になって弁当を片手に給湯室に向かうのは、彼の楽しみがあるから。ガスコンロをごく弱火にして、弁当の容器を上に乗せて温めるのだ。金属製の容器なので、燃える心配はない。
プチプチ音を立てて弁当がほどよく温まり、その香ばしい匂いがマリアたちの部屋にも漂い、空腹の部下を刺激するのである。
「弁当テロよね。襲撃される前に、お弁当買いに行く?」
立ち上がったタケルに向かって、マリアは首を横に振った。
「今点検を依頼されているモジュール、バグだらけなので、切りのいいところで」
「マリアちゃんって、目がいいわよねぇ」
「でも、キーを叩くスピードは遅いです」
彼女は、一緒にチームを組んだ三十代の中堅プログラマーAのキーを打つスピードを思い出す。マシンガンの掃射のような音を立ててコードを打ち込む彼は、意外にもミスが多い。通らないルートのバグを埋め込んだのも彼だった。
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