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「あっはっは!」
「おい張っ倒していいか」
まだ春を待つ時分では、傾き始めから日の暮れるまでの時間はえらく短いものである。
部活に勤しむ者たちはとうに姿を消しており、用もでもなければ放課後の教室に長居をする生徒は少なく影は二つきり。薄闇に室内は満たされつつあり、互いの顔も判別するのが難しくなりつつある時間だ。
そんな中、響いた笑い声は底抜けに明るいソプラノで、全く他意のない涼やかさだった。
「そ、それで君は善良で小心な花屋の店員さんからこの可憐な花束を強奪・・・いやいや買ってきてくれたんだね。嬉しいな。うん、すっごく嬉しいよ」
例え顔が見えずともわかる。むっすりとした空気の相手を前に机に腰かけ、体を前に倒しながら肩をゆする影の一つ、少女は涙さえ浮かべて笑っているのだろう。胸元には両手で抱えた黄色い束が揺れている。
「お前が、お返しはそれがいいつって強請ったんだろうが!」
少女から少し離れた席に大股を広げて座っていた少年の影が怒鳴った。
やけのように聞こえる。普段やらないことをやってのけたのに、その言い草には納得がいかないと無言で主張する。
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