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「でもだってさあ、まさか本当に浅田くんがお願いを聞いてくれるなんて思わなかったんだもーん。いくらバレンタインのお返しっていったって、由莉は彼女でもないのに」
くすくすと笑いながら、少女は手元の花束を両手で大事そうに抱えなおした。
暗い部屋の中で、その小さな黄色の粒のような色彩は鮮やかに、ふわふわと浮き上がって見えた。揺れるほどに鼻腔をくすぐる甘い香り。セーラーのスカートからのぞく組まれた脚の白い肌はいやでも目を惹く。
浅田には、花の香りも由莉本人が醸し出している空気にも大差はないと感じられた。
傍にいればひどく居心地が悪くなるのに、離れるには惜しいような、口にできない感情が胸にある。
浅田と由莉の関係はひどく曖昧で、これまで名前をつけることができないでいた。
校内でも名の知れた不良、それもガタイのいい強面男と、同学年ではありつつも華奢で小柄、人付き合いに慣れた女では接点を見出す事が難しい。卒業までいくらかの会話の機会があればマシ。その程度のものだったろう。
けれど、いかに別のテリトリーに生きる者同士であったとしても、きっかけはどこにでも転がっていたりもするのだ。
例えばそれがベタに、強引にナンパされて困っているところを不良が手際よく救ってくれたりすることでも、よかった。
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