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最後の14階では女将が自らみかんを剥き、そのひと切れだけを小皿に乗せ差し出しました。
また、そのみかんが酸っぱかったのです。
「け、結構なお手前で。」
「嘘どす!」
突然女将が泣き出しました。
「わて、わて、去年の暮に料理長の坂田はんが逃げ出してしもて。
女手一つでこの料亭を切盛りしてきたのどすえ!」
全く、泣きたいのはこちらなのです。
無理やり入らされた料亭でまずい飯を食べさせられ、14階まで登らされた挙句、
変な頭の女将の泣き言を聞かされるなんて・・・!
そこに、さっき私を無理やり連れ込んだ、軽薄な男が現れました。
「坂田はん!」
「は?」
「女将。お願いがありやす。もう一度ここで働かせてくだせぇ。わては、大恩ある女将を裏切ってしまい・・・」
「坂田はん、それは言わん約束どすえ。」
これは全くもって茶番です。
もう、わたしは何が何だか分からなく、頭も痛いのでした。
「小娘はん。失礼いたしました。お詫びにうちの総料理長の料理を、もう一度1階から味わっておくれやす。」
「・・・。」
そして私は、また1階に戻され、さっきと全く同じ料理を14階まで食べさせられました。
そして、しっかり2回分の料金を取られたのです。
私は、悔しくて悔しくて、マルゲリータのことも拒食症のことも、すっかり忘れていたのです。
めでたしめでたし。
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