思い出は、そっと心に。

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「次ーーー!!ソファー行きます!」 次に積み込むのは、2人掛けのソファー。 まぁまぁ座り心地のいい代物で、俺のベッドとしても重宝した。 「独り暮らしなんだし、隣に男座らせても仕方ないんだし、見栄はって2人掛けにしなくても良かったのにね。」 後輩が、にやにや笑いながら言う。 「ベッドにする……予定だったんだよ、最初から。」 そうはいってみたものの、その実このソファーは『元カノ』と買ったものだった。 結婚を真剣に考えていた『元カノ』。 「いつか結婚するなら、家具にはこだわりたいのよ。」 そう言われて連れていかれた家具の専門店。 2時間も悩んで買ったのは、ホームセンターにでも売っているような、シンプルなものだった。 「家具の店で買う……って言うのがいいの。真剣にふたりの今後を考えているんだ……そう思えるじゃない?」 あきれ顔の俺に、満面の笑みで言った『元カノ』のあの時の顔は、きっと今後も忘れないことだろう。 ちなみに、ごくごくまれに冷蔵庫に入っていた肉や魚。 これも、『元カノ』と同居していた頃に入っていたものだ。 このソファーにふたりで座り、いろいろ話した。 結婚式はこんなものにしたいだとか、今度の休みはどこに遊びに行こうだとか…… この料理は自信作だとか、このお笑い芸人が好きだ、とか…… ……私たちは、きっとこの先、すれ違ってばかりだと思う。だとか。 「コレ、本当に処分で良いんですか?」 「人が何年も座ったり寝たりしたソファーなんて、欲しがる奴のが少ないだろ。」 「でも……かかっちゃいますよ?リサイクル費。」 「……ま、仕方ないさ。」 少しだけ、若かった頃のほろ苦い思い出。 少しだけ財布に痛かったが、そんな思い出も、忘れずに心にしまっておこう。 もう二度と、同じ過ちをおかさないように……。
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