思い出は、そっと心に。

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「……便箋?先輩、手紙なんて書いてたんですか?」 クローゼットの中から、後輩が便箋の束を持ってきた。 「おぉ……懐かしいな。あったなぁ、昔は手紙ばっかり書いていた頃が。」 「メールで、良いじゃないですか。」 「ばぁか、手紙って言うのが良いんだよ。届いてるかな……って心配するのも、読んでくれてるかな?って期待するのも、また送ってくれるかな?……ていう期待感も、メールじゃ味わえないだろ。」 一時期、本気で文通をした時期があった。 相手は、当時同じ高校生だった。 顔も知らない。 声も知らない。 もちろん、姿も知らない。 そんな同世代の少女に、俺は夢中になっていた。 これまで書きもしなかった手紙を、週に2通。 多分、読み返したら赤面してしまうようなクサい内容だった……気がする。 カッコつけたくて、相手に気に入って欲しくて、一生懸命自分をアピールして…… 嫌われたくなくて、手紙の続きが知りたくて、俺は相手の手紙を何度も読み直し、次の話題のヒントを探したものだ。 「先輩……これから手紙、書きます?これ、捨てちゃいます?」 そんな俺の青春など知らない後輩が、俺に笑いながら言う。 「馬鹿野郎、それは俺のロマンだった。記念にとっておく。」 そんな事を言うと、後輩は何が面白かったのか、笑いながら便箋を俺のバッグに入れた。 「……久しぶりに、手紙……描いてみるかな。」
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