思い出は、そっと心に。

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「先輩!!ギター!!めっちゃカッコいいっすね!!」 クローゼットの奥から出てきたのは、手入れしたままケースに入れておいた、ギター。 昔、バンド時代に愛用していたもので、今後も暇なときにでも弾こうかなと思っていたもの。 しかし、仕事で上の職に就くと、なかなかそんな暇もなく、休みの日も身体を休めることが第一となってしまった。 気が付くと、『クローゼット内で最もスペースを取る住人』となってしまったわけで。 「いいなー、ギターいいなー!!」 「欲しいなら、やるよ。」 本当は、リサイクルショップにでも持って行って小遣い代わりにでもしようと思っていた。 買値は5万。 中古で売っても五千円程度にはなるだろう、と。 俺の青春時代。 対して顔は良くなくても、バンドやってたり、ギターが弾けるとまぁまぁモテた、俺の青春時代。 たまたま先輩がバンドをやっていて、自分もあんな風になりたいと言って、親に駄々をこねて買ってもらった、安いギターから始まり、最期のギターは自分で吟味した有名モデル。 売って金にするのが一番賢いやり方なのかもしれないが、俺の青春時代の気持ちがこうして誰かに引き継がれていくのも、何だかドラマチックで良いな……なんて思ってしまった。 「大事に使ってくれよ。……あ、これ、俺が初心者の時に使ってたスコアブック。簡単な曲から載ってるから、楽しく弾けると思うぞ。」 少しだけ黒ずんだスコアブックを受け取り、それでも大はしゃぎで喜ぶ後輩の姿を見て…… (今までありがとな、相棒。) 青春時代の思い出はそっと胸の奥にしまい込み、ギターに感謝の気持ちをぶつけた。 「ギターは、相当練習して上手くならないと、モテないぜ?」
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