思い出は、そっと心に。

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「これ、何の植物ですか?」 後輩が、大きな鉢植えを軽トラックの角に積み込み、言う。」 「……ブルーベリー。」 「え?……コレ、実……なるんですか?」 「あぁ……ほっといてもなる。それも大量に。」 俺が何故、ブルーベリーの苗を育てたのか。 その理由は、俺にとって『ブルーな』出来事があったからだ。 まぁ……察しがつく人のが多いだろうが、それは『元カノ』との別れ。 「本当にごめんなさい、私は、料理が得意でもないし、花を育てるような、そんなおしとやかな女じゃない。仕事が好きで、仕事に賭けちゃうような……そんな自分勝手な女なの。ごめんなさい……。」 結婚間近になったある日のこと、『元カノ』に出世の大チャンスが巡ってきた。 ずっと夢見ていた業種の、魅力的なポストだったらしい。 しかし、結婚も決まり、『元カノ』自身寿退社を決め込んでいた最中の打診だった。 それから、ふたりの意見の食い違いが多くなった。 夢をかなえたい、夢にチャレンジしたくなった『元カノ』と、夫婦としての幸せを夢見た俺。 ふたりの距離は次第に離れ、そして…… 「……もう、こんな感じじゃ私たち、結婚しても上手くいかないと思う。」 結婚というものが、夢に消え…… 「それぞれの道を、歩こう。」 ふたりは、恋人であることもやめた。 その時に買ったのが、このブルーベリーの苗だった。 花を育てなかった『元カノ』に対しての当てつけのような感情で買ったブルーベリー。 しかし、育っていくうちに、いつしか大切に扱うようになり…… 実が付いた時には、なんとなく切なくなった。 自分の想いは実らなかったくせに、などと思う時もあった。 「……もって、行きますよね?」 「……捨てるのも、可哀想だしな。庭の端にでも植えておく。」 この次、このブリーベリーが実ったとき、俺はどんな気持ちでそれを見つめるのだろうか……?
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