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もうすぐ、女手一つで育てた娘のサキが、つきあってる男の子、ユウくんと結婚する。ふたりの結婚は、私の心を、甘酸っぱい感傷でいっぱいにする。
かつて私には、結婚を夢見た幼なじみがいた。名前は、カズくんといった。ユウくんは、そのカズくんによく似ているのだ。
カズくんは、薄い茶色の瞳をした、ハーフみたいな美少年だった。家が近所だった私達は、物心ついた頃にはもう、ふたりで遊ぶのが日課になっていた。
近くの川へいって水遊びしたり、公園の砂場で砂遊びしたり。盛夏にはお互いの親と一緒にプールへ行き、極寒の冬には、雪だるまをつくったり、ふたりっきりの雪合戦をしたり。
なかでも一番の思い出は、小学校にあがったばかりのとある春の日のこと。
ふたりで桜を見にいったあの日。
咲き乱れる薄ピンクの花に見とれていると、カズくんが突然私の頬にキスをしたのだ。
びっくりしてカズくんの方を見ると、カズくんの頬は真っ赤になっていて。
カズくんは私に背を向けて走り去っていった。
それからしばらくすると、私達は新しくできた学校の友達と遊ぶことが多くなり、ふたりっきりで遊ぶことは少なくなっていった。そして2年生になるころ、カズくんは親の仕事の都合で、転校してしまったのだった。
「もうすぐ来るからね」
今日はサキの婚約者である、ユウくんが、親と一緒に挨拶に来る。うちは母子家庭だが、ユウくんの家は父子家庭らしい。サキとユウくん、片親同士何か惹かれるものがあったのかもしれない。
ピンポーン。インターホンがなる。
「はーい、いらっしゃい!」
私は玄関のドアを開けた。その瞬間、私は思わずひっくりかえりそうになった。
そこに立っていたのは、ユウくんと、あのカズくんだったから。
「あれ・・・?マリちゃん?」
やっぱりカズくんだ。薄い茶色の瞳に、整った顔立ち。ロマンスグレーの髪といい、歳はとったが、この雰囲気、間違いなく、かつての愛しい幼なじみ、カズくんだった。
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