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「領主様!」
声に視線を上げれば、村人らが縄を調達してきたらしい。
投げる動作をした村人らを制し、掴んだままだった手に視線をやる。
「……」
一歩後ろへ下がると、軽く礼を言われた。
「ん」
二本目の手が出てきたのは、ちょうど膝を付いていた場所だった。
「悪かった」
「気にしないで」
見えた掌を取り、引っ張ってやると、面白いほど簡単に体が土から出てきた。
村人の歓声が響く。
現れたのはまだ10にも満たない金髪碧眼の美少年。
土まみれでも損なわれない美貌に天使かと一瞬誰もが息を飲んだ。
「助かった」
領主の顔を見てへにゃりと笑う。
途端に体中の力を抜いて領主にもたれ掛かる。
「縄を!」
叫び投げられた縄を少年の体にくくり付け、引っ張るように指示する。
次いで投げられた縄で領主が穴から引き上げられ、少年を館に運ぶよう伝えた。
「女達は家に戻って子供らに朝食を、男達は穴に子供が落ちぬよう柵を作りなさい」
長老の言葉にそれぞれが動き出す。
朝から疲労に見舞われた体を引きずりながら館に戻った領主は、ふと後ろを振り返って広場のある方角を見た。
「……」
何もない。
広場だった周囲には障害物が一切なかった。
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