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春。
大学の進学に合わせて、ひとり暮らしを始めた。
いろいろ物件を見て歩いたが、結局家賃代の魅力に勝てず、
大学とは少し離れるが、安いアパートに決めた。
急な坂の中腹に、住宅に挟まれて建てられたアパートは
上にあたるお隣さんの一軒家の一階部分が、
ちょうどアパートの二階の窓の高さなので、日照時間などまったくない。
こんな狭いところに、どうやって建てたのか不思議なくらいだが
ひと昔前の瀟洒な白塗りの外観だ。
それにしても、六室あるうちの四室が空き家というのも頷ける。
駐車場のスペースもないが、俺は車もないし
寝に帰るくらいだから、ここで充分だ。
引っ越しで、たいして多くもない荷物を運び入れていると
お隣の高い家の窓から
八十歳くらいのじいさんが、こちらを窺っているのに気づいた。
髪は真っ白だが、ふさふさとしているから正確な年齢は不詳だ。
眼が合ったので軽く会釈をすると、手を挙げて笑顔になった。
小柄でやせっぽちで、顔付きはヤクザの幹部のように凄味があるが、
気さくなじいさんのようだ。
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