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「誰にも理解してもらえない。それなら、誰とも関わらなければいいと思った」
「それで、ぼっち生活?」
「うん。私、家でもね、孤独だから平気なの。あ、孤独って気持ちの問題のほうね」
「わかる。孤独感だな」
「そう。うちの親、白髪染めの費用は出してくれるし、ヘアピースだって何種類も買ってくれたり理解はあるの。でもね、〝話が通じない〟時がある」
「うん」
「若白髪ってね、遺伝やストレス、栄養の偏りとか色々な原因があるんだけど。家族に同じ症状の人はいないし、小学生時代に思い当たる原因はないの、私」
「うん」
「それなのに、両親の一言目はいつも同じ。『気にするな』の一点張り。それはわかる。気に病んでストレス過多になるのは良くないもの。でもね、その次は『生活習慣を見直そう。そのうち改善される』よ。そのうちって、いつ?」
「……ん」
「その後には『いつか髪の色なんて気にしない人が、あなたのことを好きになってくれるから』って続くの。そんな人、いるわけない。小学二年生から足かけ十年。ひとりも現れてないのに」
やべぇ。相槌を打ち損ねた。
柳の顔が明らかに強張った。しまった、と。
けれど、この話題には無理だと主張もしたい。
お互いの秘密を共有したことで親近感を覚えてくれたのか、松雪はとても饒舌になった。心の内の鬱屈まで聞かせてくれる。
柳の性格上、相談に乗るのは大得意だ。しかし——。
「ねぇ、柳くん。うちの両親に現実を見てもらうためにはどうしたらいいですか? 無理かな? 神様に『助けて』ってお祈りし続けるしかない?」
「うっ……」
松雪が天然すぎて、応答に困るのが本音。
現実って言われてもなぁ。現実見るなら、両親より先にあんたじゃね?
さりげなく目線を上にやり、紅く色づいたイロハモミジをじっと見る。柳は胸中で大きな溜息をついた。
やっぱ、この子、天然だよなー。白髪のことを『誰にもバレたくないから、伊達眼鏡とマスクで顔を隠して気配を消すことで皆の視線を避けてる』なんて本気で言ってるもんな。
「お勧めのアイデア、あるよ。彼氏、作ればいい。俺、立候補するよ」
「えっ?」
天然女子には、直球を。
ほんの数十分前に初めて言葉を交わした間柄だけど、そんなの関係ない。
だって俺、自覚と確信に満ちてる。
思い込みの激しい内気な女の子に、柳龍馬、不覚にも——。
「松雪亜美さん。俺とお試し交際、始めない?」
「おた、おた……お楽しみ、コンニャク?」
とんでもねぇ天然ちゃん相手に、不覚にも、ときめいてしまいました。
-Fin-
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