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「——おーい。そこの人、大丈夫か?」  ——びくんっ! 「ずっと(うずくま)ってっけど、気分悪ぃの? 大丈夫?」 「あ……」  突然の声かけに、身体と心臓の両方が大きく跳ねた。瞬時に、ぎゅっと瞑っていた目を開ける。  唐突に(ひら)けた光の渦の中、松雪(まつゆき)は確かに蹲っていた。気づけば、いつの間にか。 「あ、ほんとだ。私、しゃがんでる」   全く自覚していなかったけれど、指摘された通り、しゃがみ込んだ体勢だ。 「えっ、気づいてなかったのか? マジ? てことは、益々やべぇ状態? 救急車、呼ぶ?」    「ち、違います。意識を失ってたわけじゃなく、集中してて……あの、一生懸命、お祈りしてたから。だから、無意識にこの体勢になって……なってたんだと思うんです……なので、体調不良じゃない、ですっ」  白作務衣(さむえ)を身につけた相手に、松雪は懸命に言葉を紡いだ。家族以外の他人とこんなに喋ったのは、ひさしぶりだ。  ひさしぶりすぎて声が上擦ってる。言葉もつっかえつっかえだ。  でも、自分を心配して声をかけてくれた。救急車を呼ぼうかとまで言ってくれた親切な人だから、その必要は無いと説明しなくては、と思った。  神様へのお願い事を延々と言い連ねてるうちに、気づけば祈りの姿勢のまま、その場で蹲っていたらしいことを。 「お祈り? 体調不良じゃない?」 「は、はい」  あ、この声色、もしかして……。  松雪の身体が硬直した。相手の声音が低くゆっくりなものに変わったから。  怒らせた、かな?  ぴんっと張りつめた空気感が場に漂い、(おそ)れが心中を埋め尽くす。それは松雪にとって馴染み深いもの。  ひりつくこの感覚を、自分はよく知ってる。〝また〟だ。また、誰かを怒らせてしまった。  そうだよね。気を悪くするよね。怒るよね。せっかく親切に声をかけてくれたのに。  心配したその相手は体調不良なんかじゃなく、神様へのお願い事をしつこくしつこく繰り返してただけの傍迷惑な参拝者だったんだから。  声をかけてくれた人は白作務衣を着てる。竹箒も手にしてる。間違いなくこの神社の関係者だ。  ごめんなさい。さっさと帰ります。撤収します。 「すみませ……」 「なぁんだ。普通に参拝してただけか。良かったぁ!」  え?
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