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「なら、いいんだ。んじゃ、ゆっくり続きやって? 大事な祈願の邪魔しちまって悪かった」  え? え? 「あっ、あのっ! 怒らないのっ?」 「へっ?」  自分は何をやってるんだろう。  松雪は驚いていた。  地面に蹲っていた自分に合わせてしゃがんでくれていた相手が立ち上がる気配は、極力、他人との接触を避けて生きていきたい自分にとってラッキーな展開でしかないのに。その人の白作務衣をひっ掴んで引きとめている。  有り得ない。驚愕だ。疑問だ。   「お、お掃除、するんでしょ? 邪魔だから帰れって言わないの? わ、私、時間がどれだけ経ったのかもわからないくらい、長くお祈りしてた。それがわかってるのに、どうして怒らないの? なんで、まだここに居ていいなんて言うの?」  でも、勝手に手と口が動いていた。もっと大きな疑問を尋ねることを思考が優先したんだと、松雪は驚愕しつつ納得もした。 「うわぁ、すげぇたくさんの質問が一度にきたなぁ。いいよ、順番に答える。でもその前に、俺の質問、先にいい? ——あんた、なんで、ずーっと俯いてんの?」 「……っ」 「人と会話すんなら、顔くらい上げといたほうが良くない?」     あ……。  白作務衣の男の言葉が、松雪の身体を硬直させた。 「他人と目ぇ合わせんの苦手な人もいるって知ってるけど、聞きたいことがあるんなら、目線は逸らしててもいいから顔だけは上げといたほうがいいと思うよ?」   失敗した。  一番に浮かんだのは後悔。松雪の唇が、きゅっと引き結ばれる。男の言葉は、最も答えたくない質問だった。
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